和算と西洋数学の計算方法には、理論や表記、アプローチの違いがあります。ここでは、具体的な事例を5つ挙げて、それぞれの違いを解説します。
① 代数学:方程式の解き方(天元術 vs. 西洋の代数学)
和算(天元術)
- 天元術(てんげんじゅつ)は、未知数を「元(x に相当)」として扱う和算の方法。
- 方程式を 「算木(そろばんのような棒状の計算道具)」 で表し、両辺を操作して解を求める。
- 例:
- 3x+5=143x + 5 = 143x+5=14 を和算で表すと、”元”(x)を計算盤上に置き、係数を操作する。
西洋数学(代数学)
- 変数(x, y など) を使い、記号による数式で表現。
- 方程式を移項・因数分解・代入法などで解く のが一般的。
- 例:
- 3x+5=143x + 5 = 143x+5=14 の場合、3x=93x = 93x=9 から x=3x = 3x=3 を求める。
✅ 違い
- 和算では 算木を使い、視覚的に解を求める のに対し、西洋数学では記号を使った式の操作が主流。
- 天元術は記号代数学の概念に近いが、算木の操作で解く点が独特。
② 幾何学:円周率の計算(円理 vs. 西洋の微積分)
和算(円理)
- 関孝和(せき たかかず) によって発展した「円理(えんり)」が和算の微積分的な手法。
- 円を多角形で近似 し、円周率を求める。
- 例: 正1024角形を使い、円周率を 3.141592648 まで計算。
西洋数学(微積分)
- アルキメデスの方法(円を内接・外接多角形で近似)を経て、ニュートンとライプニッツの微積分へ発展。
- 円周率を 無限級数展開(π/4 = 1 – 1/3 + 1/5 – 1/7 + …) で求める。
✅ 違い
- 和算は多角形近似の手法を発展させたが、級数展開は使わなかった。
- 西洋数学では微積分を用いた解析的なアプローチ に進化。
③ 計算法:掛け算の方法(和算独自の乗算 vs. 西洋の筆算)
和算(乗法の算法)
- 九九を基本 に、複雑な掛け算を 「割算掛(わりざんがけ)」 という方法で解く。
- 例: 456 × 23
- 456 を 20 倍して、456 × 3 を足す という形で処理。
西洋数学(筆算)
- 十進法を使った筆算 で桁ごとに積を求め、縦に加える方法。
- 例: 456 × 23
- 456 × 3 を計算し、456 × 20 を計算し、それを足す。
✅ 違い
- 和算では九九を最大限活用し、掛け算を分割して処理。
- 西洋数学では桁ごとに積を求め、縦に加える筆算方式。
④ 三角法:角度の求め方(算額の三角法 vs. サイン・コサイン)
和算(三角法)
- 和算では「弦(けん)」の概念を使って三角関数の問題を解く。
- 例えば、直角三角形で「斜辺の長さを基準に高さを求める」場合、「弦の割り算」で処理。
西洋数学(三角関数)
- サイン(sin)、コサイン(cos)、タンジェント(tan)を使い、関数として角度を求める。
- 例: sinθ = 高さ / 斜辺 で計算。
✅ 違い
- 和算は「弦」を使った比率計算 で処理し、西洋数学は 三角関数を解析的に定義。
- 和算は 計算方法が直感的 で、西洋数学は 代数的・関数的な表現が明確。
⑤ 連立方程式の解法(天元術 vs. ガウスの消去法)
和算(天元術の応用)
- 連立方程式を 「算木を使った視覚的な操作」 で解く。
- 例:
- 2x+3y=82x + 3y = 82x+3y=8
- 3x+5y=133x + 5y = 133x+5y=13
- 係数を調整しながら「算木を動かす」ことで解を求める。
西洋数学(ガウスの消去法)
- 行列を使い、ピボット操作で変数を消去 する方法。
- 例:
- 行列の行基本変形を使い、段階的に x, y の解を求める。
✅ 違い
- 和算は 視覚的な操作 に頼り、西洋数学は 代数的な行列演算を用いる。
- ガウスの消去法はより一般化され、応用範囲が広い。
総括
和算は 視覚的・直感的な方法 に依存し、算木などを使って計算するのが特徴。
西洋数学は 代数的・関数的な表現 を発展させ、理論体系が整っている。
和算の技術は日本独自の数学文化を生み出したが、19世紀以降は西洋数学の導入が進み、
現在の数学は西洋式の計算方法が主流となっています。
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